スペイン語に架ける恋の橋-28-
「それで、マリアドールMaria muñecaはどこにあるの?」
マリアドール。それは兄の娘、ホセの姪エリザベスがマラガに引っ越すことになった時に、あの娘が大切にしてねとプレゼントしてくれた人形だ。たぶん自分の代わりに可愛がって欲しいという意味だったんだと思う。母親madreに手伝ってもらったのか手作りの人形で、胸に小さくマリアと文字が縫い込んであった。毛糸でできた長い髪の毛peloはエリザベスと同じきれいなブロンドで、目ojoにはちょっと大袈裟な睫毛が生えていた。
この店をオープンしてから家にいる時間が少なくなったので、人形はカウンター端に置いてある小窓付きの扉のある棚に大事に収めてある。あまり目立つように置いてはないのだが、たまに若い女性客が目を細め楽しげにその人形を見たり、連れの人と何か話をしている。以前昼間にアルバイトをしてくれていたモニカによると、スペインの女の子niñaは必ず1回は人形作りにはまるらしく、マリアドールを見て子供の頃を懐かしんでいるのだという。
ホセは縁起を担いだりする方ではないのだが、この人形を店に置く前と置いた後とで客の入りが変わったような気がした。特に外国人観光客がよく来るようになったように思う。だいぶ前に来た日本からの留学生に聞いた話では、日本には客をたくさん呼ぶために片手を上げた姿で座っている招き猫という置物があるそうで、特に飲食店ではよく見かけるものらしい。エリザベスがこの人形を渡してくれた頃にはまだ店を持つことさえ考えていなかったが、今こうして見るとマリアドールは両手を前で組んでいるような形で、いらっしゃいませをしているようにも見える。招き人形になってくれているのかもしれない。
「マリアドールのことを何で知ってるんだ?」ホセは牛柄女に訊いた。
「うーん、うまく言えないけど、わたしのお姉さんというか、憧れというか。とにかくこのお店に来ればマリアドールに会えるって聞いてきたから。」
ホセはカウンターの端の棚を指差してやった。女が顔を輝かせてそちらに駆け寄った。







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