スペイン語に架ける恋の橋-22-
牛柄の女を引きずるようにして歩く。腕も被りものの服に覆われているので掴みにくい。とても細い腕だ。強く掴むと折れそうな気がして強引に引っ張ることはせず、相手の歩調に合わせて、でも少しだけ急がせるように引っ張る。素直についてくるのでやっかいなことにはなりそうになかった。
幸いまだ行き交う人はとても少なく(少ないpoco)、警官(policía)の姿も今のところは見えない。やましいところはどこもないのだが、こいつを見られてはいけない気がした。何故かラウル自身が恥ずかしい思いだった。
なんてことだろう。もう今日は寝る(dormir)ことさえ出来ないかもしれない。絵を描くのを仕事にしていた頃から1日や2日の徹夜は何度も経験してるから、寝られないことは気にならない。しかしバルを明日(mañana)、いや正しくはもう今日(hoy)の夕方だが、営業できるかどうかということの方が気になった。厨房の2人とアルバイトのボーイだけで急場はしのげるだろうが、たまにやってくる外国人観光客の集団ご一行様が来たらやばいことになる。スペイン語が話せない彼らからうまく注文(pedido)を取ることができるのはラウルだけなのだ。もうほとんど特技と言ってもいい。この技もミゲルから伝授してもらった。いや伝授というより、むしろ盗んだという方が近い。
バルを始めるにあたり、一応義理堅くミゲルの店に挨拶(saludo)に行った。そしてその場でバル経営の大変さを散々吹き込まれた。その中に外国人観光客の扱いの難しさ(dificultad)があった。しかしミゲルはそれを難しいと言いながら嫌がっている素振りは見せなかった。
ラウルは頭はあまり良くはない(頭がいいlisto)が、勘はいい。ミゲルが何か大事なことを隠しているような気がした。特に外国人観光客の扱い方についてだろう。
ある晩、一般客に混じってミゲルの店を訪れた。無論その秘密(secreto)を探るためだ。運(suerte)のいいことにその晩ミゲルの店には、東洋系と思われる若い女性の集団が数組居た。彼女らからどうやって注文を取るのか、そして満足させるのか。たぶんそれに秘密があるような気がして、店の隅の席からじっとミゲルの動きを観察した。ラウルが見ているのに気付いてる様子はない。
訳の分からない言葉で、メニューを見ながら話をしているグループの1つにミゲルが近付いていった。来た。やりとりを見逃してはならない。
(続く)







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