スペイン語に架ける恋の橋-20-
ラウルが譲り受ける前の店の名前は“ラス コミダス”(las comidas)だった。単純に食べ物屋ってことだ。地元のおやじ連中には入り易いがちょっとがさつな感じのする店内だった。まずまず繁盛はしていたが30歳の超えたばかりのラウルがマスターをするには古い(viejo)感じがした。
バルをリニューアルするに目指したのは、老若男女誰でも入り易く、年齢(edad)や性別(sexo)、国籍(nacionalidad)などの差を越えて客同士が言葉を交わせるような気安さだった。内装の明るさやお洒落度はもちろんのこと、メニュー(menú)もスペイン料理だけにこだわらず、欧州(Europa)各国料理や日本料理(comida japonesa)なども取り入れた。
古くからの常連には当初嫌味を言われたが、ユニーク(único)なバルとしてガイドブック(el libro de guía )などに取り上げられ、若い女性(señolita)や外国人観光客(turista)などが来店し店が賑やかになってくると、元々話好きのマドリッドの人達と新しい客との交流は、あえて促すまでもなかった。
ラウルの狙いは当たった。
あえて伝統的な(tradicional)バルの雰囲気を守っているミゲルの店ともうまく棲み分けられ、商売敵は商売仲間になったというわけだ。持つべきものは友達というが、時には持つべきものは敵(enemigo)だということもあるのだ。
考え方や言い分の違うものとはとかく距離を置きたくなるものだが、逆にそういうものから得られることの方が、新しく(nuevo)新鮮(fresco)であることが多い。自分が積極的(positivo)に得ようとすれば、何からでも得ることがあるものだ。
“ウン ベシート”(un besito)という店の名は、姪のエリザベスが幼い頃の口癖から命名した。一緒に遊んでやるとお礼だばかりにラウルのほっぺに「軽いキス」を“ウン ベシート”(un besito)と言いながら何度も繰り返した。
まあ早い話が、ラウルは姪離れできてなかったというわけだ。
(続く)







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